楽天のブロックチェーンビジネスを加速させる「楽天ブロックチェーン・ラボ」

楽天のブロックチェーンビジネスを加速させる「楽天ブロックチェーン・ラボ」

楽天ブロックチェーン・ラボ(Rakuten Blockchain Lab/以下、RBL)は、2016年8月にベルファスト(英国)に設立され、現在では東京(日本)も含めて20名以上のメンバーが働いています。楽天社内およびパートナー企業とブロックチェーン技術の活用事例を創出するべく活動しているRBLが、実際にどのような業務を行っているのかご紹介します。

目次

ブロックチェーンの活用を促進する「Rakuten Blockchain Platform」

RBLはブロックチェーンや仮想通貨、分散型台帳技術の実験および実装を促進することをミッションに掲げ、活動しています。主な活動内容としては、ブロックチェーン・プラットフォームの開発・運用を行っています。

RBLでは、楽天社内のビジネスユニットやエンジニアが、ブロックチェーン特有の技術的な複雑さを気にすることなく、ブロックチェーンを活用できるエンタープライズ向けのプラットフォームを構築しています。具体的には、Webエンジニアが簡単に利用できるAPIセットを提供して、すぐにブロックチェーン技術を試したり、実際のアプリケーションに組み込んだりすることができるようにしています。

Blockchain Meetup

RBLの主な役割は、楽天社内のビジネスユニットがブロックチェーンを容易かつ迅速に利用できるようにサポートすることです。そのため、ブロックチェーンを利用したアプリケーションを開発する際は、共同でPoC(概念実証)やサービス開発を行います。

また、ブロックチェーンは新しい技術のため、ブロックチェーンについて正しく理解を深めたり、適切なユースケースを見つけたりすることが未だ容易ではありません。さらに、ブロックチェーンの特性上、社外の企業との連携も重要です。そこでRBLでは、プラットフォームの開発に取り組むだけでなく、社内外に対するコンサルテーション、エデュケーション、プロモーションにも積極的に取り組んでいます。

Rakuten Technology Conference

多様なユースケースをサポートするプロダクション品質のソリューション

RBLが提供する「Rakuten Blockchain Platform」は、エンタープライズ・ブロックチェーンとパブリック・ブロックチェーンの両方をサポートしており、それらを活用した様々なソリューションをプロダクション品質で提供しています。

プロダクション品質のソリューション

ブロックチェーンの主なユースケースの1つであるトークンに関しては、デジタルトークン(ファンジブルトークン、代替性トークン)とノンファンジブルトークン(非代替性トークン)の両方をカバーしています。デジタルトークンの利用用途としては、ステーブルコインやユーティリティトークン、マイクロリワードなどがあり、ノンファンジブルトークンについては、デジタルコレクタブルやバッジ、証明書などを想定しています。

また、トークンだけでなく、任意の文字列として表されるイベントをブロックチェーン上に改ざん不可能な記録として書き込むソリューションも提供しており、サプライチェーンにおける企業間での情報共有や、監査可能な証跡の用途などで利用できます。

楽天ブロックチェーン・ラボ

加えて、楽天ならではの取り組みとしては、楽天経済圏の拡大に寄与することを目指して、楽天が持つアセットと外部アセットとの交換レイヤーを、ブロックチェーンを活用したソリューションとして提供しており、実際にEUの楽天ポイントとの交換をサポートしはじめています。

そのほか、暗号資産取引所の楽天ウォレットのプロジェクトでは、暗号資産のホットウォレットのソリューションを開発・運用しており、秘密鍵の安全な管理にも注力しています。

プラットフォーム開発においては、様々なブロックチェーンに対して、暗号鍵の保管、トランザクションの構築・署名・公開・監視を行うだけでなく、これらの機能をモジュール化した開発を行い、安全に拡張したり再利用したりすることが可能な環境を構築しています。

参考までに、主な技術スタック(開発環境)は以下の通りです。

  1. MultiChainなどのエンタープライズ・ブロックチェーン製品や、BitcoinやEthereumなどのパブリック・ブロックチェーン
  2. Node.jsを使ったマイクロサービスアーキテクチャ
  3. TypeScript言語
  4. リレーショナルデータベース(Postgres、Oracleなど)
  5. DockerコンテナとKubernetesコンテナ管理
  6. Microsoft Azure クラウド

ブロックチェーンが実現する新たな価値

ここからは、RBLが実施したプロジェクトを3つご紹介します。

1. IOTデバイスとの連携によるセキュアな占有状況管理

まずご紹介するのは、ダブリンに拠点を置くIoTプラットフォームのスタートアップであるWia社と共同で行った、ブロックチェーンによるセキュアな占有状況管理のPoCです。

新型コロナウイルス感染症により様々な業界が影響を受ける中、ビジネスにおいては新しいルールに従った運営が求められ、規制の範囲内で安全に運用されていることを示す必要があります。このプロジェクトでは、オフィス等に設置されたIoTセンサーが取得した占有状況に関するデータを、ブロックチェーン上に監査可能な証跡として記録。さらに、そのデータをもとに、規定の人数を上回る場合は警告を出すなどのアクションを起こす仕組みを構築しました。

具体的な仕組みは、まず、RBLのオフィスに取り付けられたIoTセンサーが占有状況のデータを収集してWiaのクラウドベースのIoTプラットフォームに送信。そのイベントがトリガーとなって、WiaのIoTプラットフォームがRBLのプラットフォームを呼び出し、データがブロックチェーン上に改ざん不可能な記録として書き込まれます。

これらのイベントは、監視対象スペースの現在の占有数と最大占有数を表し、占有状況が変化するたびに記録されます。許可を得た組織はブロックチェーンのノードを通じてその記録に独立してアクセスし、占有状況に関するイベントの詳細を取得することができます。

また、これらの記録は管理者でも書き換えができないため、従業員や監査機関などの関係者に対し、より高いレベルの信頼性を提供することができます。

Wia社と共同で行った、ブロックチェーンによるセキュアな占有状況管理のPoC

今回のPoCでは、WiaとRBLの両者が持つソリューションのコア部分を持ち寄ることで、非常に短い期間での開発を実現しました。RBLからは、ブロックチェーンにイベントを書き込むソリューションとして「Auditable Event Service」を提供しています。

将来的には、あらゆるIoTデバイスからの情報にも対応可能です。この先進的なIoTセンサーは、新型コロナウイルス感染症対策として、企業の顧客や従業員との信頼構築のために活用できると考えています。さらに、旅行会社やレストラン、イベントの予約サイトで、訪問しようとしている場所の占有状況のデータを閲覧できるような活用方法が考えられるでしょう。

RBLでは、このPoCを他の楽天ヨーロッパのオフィスにも拡張し、従業員がオフィスでの勤務を再開する際の社内コンプライアンス要件に対応したいと考えています。

2. トレーサビリティの向上による新しい寄付体験

続いて紹介するのは、寄付のトレーサビリティに関するPoCです。楽天のサステナビリティ部と共同で、ブロックチェーンを活用した寄付履歴管理サービスのPoC用プロダクトを開発し、外部チャリティー(寄付キャンペーンの支援先)の協力のもと、楽天社員向けに「楽天クラッチ募金」でのキャンペーンを実施し、140人以上から合計約230,000円の寄付金を集めました。

寄付者の寄付金がチャリティーや最終受益者に渡るまでの一連のプロセスにおけるデータはサイロ化されており、トレーサビリティの課題があります。例えば、寄付者はいつどのように寄付金が使われたのかを知ることが容易でなく、また、チャリティーは寄付者と十分な繋がりを持てません。一つの企業に依存しないブロックチェーンにサイロ化されたデータを集めることで、これらの課題が解決できるのではと考えPoCを実施しました。

本PoCにおいても、「Auditable Event Service」を利用し、寄付者による寄付履歴と、ファンドレイザー(寄付キャンペーンの主催者)からチャリティーへの寄付金の移転履歴をブロックチェーンに記録し、ユーザーフレンドリーなUIを通じて、寄付の一連のプロセスおよび全ての寄付履歴を可視化しました。加えて、「Rakuten Token Platform」のソリューションを用いて、寄付先からの感謝を表すデジタルトークンを発行し、寄付者に送付しました。

ブロックチェーンを活用した寄付履歴管理サービスのPoC

将来的には、トレーサビリティの課題に留まらず、寄付金控除の申請の簡略化や、寄付金のチャリティーへの即時支払い、さらには、社会的課題の解決に向けたトークンによるインセンティブの活用などのユースケースへの拡張が考えられます。

3. EUの楽天ポイントとSocios Fan Tokenの交換サービス

最後に紹介するのは、ファンエンゲージメントプラットフォームのSocios.comとの協業により実現した、EUの楽天ポイントをSocios Fan Tokenに交換できるサービスです。メンバーシップやファンベース、ロイヤリティポイントやファントークンといった両者のアセットを活用し、双方にとって有益で持続可能なパートナーシップの確立を目指しました。

EUの楽天ポイントをSocios Fan Tokenに交換できるサービス

本プロジェクトにおけるRBLの役割は、楽天ポイントとパートナー企業のバウチャーやクーポンとの交換をサポートするブロックチェーンベースのソリューションを提供しており、EUの楽天会員向けサービスである「Club Rakuten」上で、楽天会員は楽天ポイントと引き換えにSocios Fan Tokenのバウチャーを手に入れることができます。

このソリューションは主に以下の3つのモデルでの交換に対応しており、今回のプロジェクトでは1つ目のモデルを採用しています。

  1. 事前アップロードしたバウチャーとの交換
  2. パートナー企業が自身のバウチャーシステムで交換に利用できるAPIを持っていない場合、RBLが提供するAPIを利用してバウチャーをブロックチェーン上のトークンとして事前にアップロードする形で、交換を簡単に実現できます。

  3. パートナー企業のバウチャーAPIを利用した交換
  4. パートナー企業が自身のバウチャーシステムで交換に利用できるAPIを持っている場合は、楽天ポイントからの交換時にRBLがパートナー企業のAPIを呼び出すことで、より動的な交換を行います。

  5. RBLのバウチャー発行システムを利用した交換
  6. パートナー企業が自身のバウチャーシステムを持っていない場合は、RBLのソリューションを利用して、楽天ポイントと交換可能なバウチャーをブロックチェーン上のトークンとして発行することができます。
  7. また、適用した交換レートや、その他請求に関連するような交換プロセスにおける重要なイベントの記録先としてもブロックチェーンを利用しています。
  8. 本プロジェクトは、EUの楽天ポイントの流動性の向上によってEUの楽天会員の利便性を高める戦略的な取り組みとして位置づけており、交換パートナーの継続的な拡充に取り組んでいきます。

ブロックチェーンをビジネスの成長のキードライバーに

Rakuten Blockchain Platformのロードマップは、主にビジネスユニットからの需要を考慮して決定しています。例えば、「Rakuten Token Platform」は、2020年にEUでのポイント交換のユースケースなどをサポートするために開発されました。2021年に入ってからは、ノンファンジブルトークンの分野に強い関心が寄せられており、それをサポートするためのソリューションを開発中です。

また、ブロックチェーンの原則に基づいたソリューションを提供することが重要であると考えており、楽天グループおよびパートナー企業をまたいだユースケースによるビジネス拡大をサポートできる「コンソーシアムレディ」のソリューションを構築しています。

楽天ブロックチェーン・ラボ

プラットフォームの提供だけでなく、楽天社内のブロックチェーンコミュニティを拡大することも重要なミッションの1つであると捉えています。暗号資産やトークンを活用したソリューションの導入が様々な分野で進んでおり、ブロックチェーンは急速にメインストリームに近づいてきています。開発チームだけでなく、プロダクトマネージャーやビジネスリーダーともつながり、ブロックチェーンによるビジネス貢献の可能性を理解し検討してもらうことが重要だと考えています。

そのため、RBLでは、各ビジネスにおける活用可能性を探るために、特定分野に特化したワーキンググループを開催したりしています。

各ビジネスや楽天経済圏の成長のキードライバーとしてブロックチェーンが活用される機会を増やすべく、引き続き精力的に活動していきます。

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